
社長
検子、整子……お前たちに話がある。

あら、ボス。
どうしたのよ、あらたまって。

社長
私が六車ガレージを設立して1年が経とうとしているが、
ここ最近、売上はまったく伸びていない。
車検台数も、整備売上も横ばいだ。

……私が、
車検に通らない車の入庫を断っているからかしら。
でも、
保安基準に適合しない車をそのまま受け入れて、
不正改造状態のまま点検や整備をするのは危険だわ。
もし運輸支局の監査で指摘されたら、
店にも大きな影響が出るし…

そうね……
いくら点検や整備で売上を伸ばそうとしても、
その車が不正改造車だったら入庫できないものね。
私たちは、法令を守って仕事してるわけだし。
売上を増やすにしても、やっぱり限度はあるわ。

お前たちがやっていることは間違っていない。
決められたルールを守り、きちんと仕事をしている。
それは六車ガレージとして、誇るべきことだ。
……だがな。
今の六車ガレージには、決定的に欠けているものが一つある。

それって一体…

それは、「――“売る力”だ。」

あら、それならアタシの得意分野よ!
オイルやバッテリー、タイヤといった消耗品を売るってことね!

それはどうかな。
整子、お前は六車ガレージが危機に陥ったとき、
売り上げを伸ばすために非情になれるか?

必要のない部品の交換をすすめろってこと?
悪いけど、そういうスタイルはアタシのポリシーに反するわ。

そう、お前たちは正しい仕事をしているがゆえ、
経営難になった場合突破口を切り開くことが
できないのだ。

社長、
もしかして詐欺まがいなことを考えているんじゃ…

安心しろ、そんなつもりは毛頭ない。
そろそろ時間だな。

失礼いたします。
本日よりこちらでお世話になります、
大口と申します。
よろしくお願いします。


紹介しよう。
彼は、大手中古車チェーン出身の営業マン、大口だ。
今日から、この六車ガレージで営業として働いてもらう。
また、前職では管理職も経験している。
今後は、お前たちのマネジメント面についても任せるつもりだ。

私は前の会社を辞め、高い成果を求められる条件で、この六車ガレージに来ました。
社長からは、「店の売り上げを伸ばしてほしい」と期待されています。
私は、六車ガレージをさらに成長させるためなら、手段を選びません。
どうぞよろしくお願いいたします。

手段を選ばないなんて
……随分物騒な言い方ね。

六車ガレージは、法令を守る店よ。
不正改造車を黙認するつもりなら―

誤解しないでください。
私は“違法行為をしろ”
とは言っていません。
ただ……
あなたたちは“売り方”を知らない。

例えば、
車検で来店したお客様。
あなたたちは、
“通るか、通らないか”
“安全か安全でないか”
しか説明していない。

それが検査や整備の基本でしょ?

それは違います!
検子さん、検査の基準でタイヤの溝は
何mm必要なのですか?

基準では、“1.6mm以上”必要よ。
タイヤの溝の基準について
接地部は、滑り止めを施したものであり、滑り止めの溝は、空気入ゴムタイヤの接地部の全幅にわたり滑り止めのために施されている凹部(サイピング、プラットフォーム及びウエア・インジケータの部分を除く。)のいずれの部分においても1.6mm以上の深さを有すること。

それでは整子さん、
タイヤの溝が少ないと
どういう現象が起こりますか?

“ハイドロプレーニング現象”が起きるわ。
タイヤと路面の間に水が入り込み、
タイヤが水の上に浮いたような状態になる現象のことよ。
ハイドロプレーニング現象とは?
ハイドロプレーニング現象とは、
タイヤと路面の間に水が入り込み、タイヤが水の上に浮いたような状態になる現象です。
通常、タイヤの溝は路面の水を排出する役割を持っています。
しかし、
- タイヤの溝が少ない
- 雨量が多い
- スピードを出しすぎている
といった条件が重なると、水を排出しきれなくなります。
するとタイヤが路面をしっかりつかめなくなり、
- ハンドル操作が効きにくい
- ブレーキ性能が低下する
- 車両が滑走する
など、大変危険な状態になることがあります。
特に高速道路では発生しやすく、重大事故につながるおそれもあります。

けど整子はタイヤの溝が少ないときは
検査基準を満たしていても危ないと判断したら、
その何とか現象を説明しているわ!

そう――あなた達は、そこまで説明して満足している。
ですが、“説明した”だけでは足りないんです。
例えば――
お客様が、小さなお子さんを乗せている主婦の方だったとしましょう。
「雨の日。すり減ったタイヤ。高速道路の水たまり。」
「もしタイヤが原因でスリップ事故を起こし、
お子さんに“もしものこと”があったら……?」

さらに言えば――
車の使い方によって、“危険性”は大きく変わります。
例えば、配達用の車。
たとえ検査基準を満たす溝が残っていたとしても、
タイヤにひび割れがある状態で毎日荷物を積んで走れば、
積載によってタイヤへ大きな負担がかかります。
すると最悪の場合――
走行中にバーストする危険もある。

特に夏場や高速道路は危険ね……。
夏場はなぜタイヤが危険?
夏場は路面温度が非常に高くなり、タイヤ内部の温度も上昇しやすくなります。
その状態で、
- 空気圧不足
- タイヤのひび割れ
- 過積載
- 高速走行
などが重なると、タイヤへ大きな負担がかかります。
最悪の場合、タイヤがバースト(破裂)する危険もあるため、夏場は特にタイヤ点検が重要です。

そして問題は、“タイヤが壊れること”だけではありません。
配送中に事故を起こし、積荷の商品に損害を与えた場合――
その損害額は、タイヤ代とは比較にならない可能性がある。
数万円のタイヤ交換を先延ばしにした結果、
数十万、数百万単位の損失につながることもあります。
だから私たちは、
“まだ基準を満たしているから大丈夫”ではなく、
“その車の使われ方まで考えて提案する”必要があるんです。


これで、“検査”“整備”“販売”――
六車ガレージの駒は揃った。
「法令を守る者。
技術で支える者。
価値を伝える者。」
さて……
ここから六車ガレージが、どこまで登り詰めるか。
今後の売上が楽しみだ……。

検子、整子。
都合のいい日に、大口の歓迎会を開いてやれ。
親睦を深めるのはもちろんだが……。
営業マンがどんな信念を持って営業をしているのか、現場のみんなにも知っておいてほしい。
六車ガレージは、“腕”だけでは成り立たない。人と人との信頼で回ってる店だからな。
今回のポイント
- 車検に通る=安全ではない
- タイヤは“命を支える部品”
- 車の使い方で危険性は変わる
- 本当に必要なのは“納得できる説明”



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